むし歯になってしまい、やむを得ず歯を削ることになった場合、失われた部分を人工物によって補う(修復する)必要が出てきます。修復物は、その大きさ(失われた歯の大きさ)によって大別され、小さいものは「詰め物(専門用語ではインレーや充填)」、大きいものは「かぶせ物(専門用語ではクラウン)」と呼んでいます。当院で実施している修復法について以下で紹介いたします。近年、コンピュータを応用した歯科用CAD/CAMシステムによるデジタルデンティストリーが普及し、材料の選択肢が急増しました。その結果、治療メニューは膨れあがり、一般にはなかなか理解し難い内容になってしまっております。詳しい説明も、後日追加していく予定ですが、それまでは、担当医に直接ご相談いただければと思います。
詰め物(インレーもしくは充填)
e.maxインレー(セラミックインレー)
「二けい酸リチウム ガラスセラミック」と呼ばれる材料。白くて透明感に富み、色調変化もないため、審美性・長期安定性に優れています。レジン(歯科用プラスチック)に比べると、吸水性がなく、表面の凹凸が顕微鏡レベルで少ないため、プラーク(歯垢)が付着しにくく、むし歯のリスクも抑えられます。また、金属アレルギーの心配もないため、小さいむし歯~中くらいのむし歯の治療方法として、多くの人におすすめできます。
ただし、金属やジルコニアに比べると材料強度は劣るため、極端な歯ぎしりや「くいしばり」のクセがある方には、この治療を避けた方がよい場合もあります。
e.maxインレー(セラミックインレー)の評価 | |
見た目の自然さ・美しさ | ★★★★★ |
汚れ(プラーク)のつきにくさ | ★★★★★ |
材料強度 | ★★★★☆ |
適合精度 | ★★★★☆ |
経済性(治療費の安さ) | ★★★☆☆ (自費治療) |
当院におけるe.maxインレーによる治療例
ハイブリッドセラミックインレー(ハイブリッドインレー)
ハイブリッドセラミックは歯科治療用のプラスチック(レジン)をセラミックの粉末で強化したものです。ハイブリッドセラミックインレーの見た目は白く、セラミックインレーより安価で治療ができるメリットがあります。ただ、セラミックという名がつくものの、実際の性質はプラスックに近いため、見た目の自然さはセラミックと比較して劣ります。また、プラークなどの汚れもレジンと同じくらい付着しやすいというデメリットがあります。昔、純粋なセラミックインレーがもろくて壊れやすかった時代、白い詰め物というと、このハイブリッドセラミックインレーがよく使われました。しかし、セラミックインレーの強度が大きく改善された現在は、使用頻度が減ってきています。金属の詰め物だと目立ってしまう部分に、なるべく費用をかけずに白い詰め物をしたい場合、治療の一つの選択肢になると思われます。
レジン充填(保険適応)
むし歯の部分を取り除いた後に、コンポジットレジンとよばれる歯科用プラスチックを詰める方法。
保険がきく上、比較的審美性にも優れているため、歯科治療では非常にポピュラーな方法です。ごく初期のむし歯や、小さめのむし歯であれば、これで十分なケースもあります。ただし、小さなむし歯でも、歯と歯の間にできたむし歯の治療において、完璧なレジン充填を行うのはかなり難しく、セラミックインレーや金属インレーの方が治療の信頼性は高めです。また、中くらいから大きなむし歯の治療では、材料強度の面から他の治療法が推奨されることもあります。
この材料の最大の難点は、わずかながらも吸水性があり、金属やセラミックなどより表面の微細な凹凸によりプラーク(歯垢)の付着がしやすいこと。そのため、セルフケア(ブラッシング)をしっかりしないと再びむし歯になるリスクがあります。
レジン充填の5点満点での評価
- 審美性 4点
- 汚れ(プラーク)のつきにくさ 2点
- 材料強度 3点
- 接着強度 4点
- 適合精度 3~5点(治療場所によるバラツキあり)
- 治療費用(コスト) 5点 (保険適応)
当院におけるレジン充填による治療例
銀合金インレー(金銀パラジウム合金・保険適応)
金銀パラジウム合金と呼ばれる金属を使用します。保険適応となる合金は、その成分がJIS規格で定められています。おおよその組成は、金12%、銀50%、パラジウム20%、銅16%で、その他の金属が微量に添加されています。高い靭性と耐食性があり、材料強度(丈夫さ)の観点からは、さほど問題がないと思われます。ただ、さまざまな理由(※)により、高カラットの金合金を使用した自費治療による詰め物に比べると、適合精度がやや劣り、接着用セメントの選択にも制約があるため、セルフケアが悪いと歯周病の進行やむし歯の再発のリスクが高まりやすくなる可能性があります。また、ごくまれではありますが、金属アレルギーの原因となりうることも難点です。
※さまざまな理由・・・金銀パラジウム合金という詰め物の材料そのものがあまり良くない、という論調も世の中にはありますが、戦後日本において脈々と使い続けられてきた実績は無視できません。高カラットの金合金がベターとは考えるものの、限られたコストの中で、口の中という過酷な環境に耐えうる歯科治療材料として金銀パラジウム合金は現実解であると考えます。ただ、保険治療のコスト(時間・費用の両面の)制約によって、型どりや模型材に精度の高い(一般に高価な)材料を使用することは現実的に困難であること、製作サイドも自費治療に比べ短時間で製作する必要があることなど、様々な隠れた要素があることもご理解いただきたいと思います。そして、詰め物そのものの材質が何であるかよりも、こうしたいくつかの隠れた要素によって、詰め物の辺縁適合性(歯への適合精度)が大きく変わることは、歯科医師なら誰でも、多かれ少なかれ実感していらっしゃるものと推察します。歯科医師自身やその家族・親しい友人を治療する際、自費治療を選択することが多いのはこうした理由があるのではないでしょうか。
しかしながら、当院では、保険治療においても、材料の制約はあるにせよ技術面では、目に見えない部分もできる限りきちんと行い、良心に恥じることのない治療をしたいと考えております。
銀合金インレーの5点満点での評価
- 審美性 1点
- 汚れ(プラーク)のつきにくさ 4点
- 材料強度 5点
- 接着強度 3点
- 適合精度 3点
- 治療費用(コスト) 4点 (保険適応)
かぶせ物(クラウン)
治療する歯のむし歯(歯の欠損部分)が大きく、上記で紹介したような詰め物(充填やインレー)では治療できない場合、ご自身の歯を土台にして、外側から歯の形をした人工物をすっぽりかぶせることで、歯の形を元に戻すのが、「かぶせ物(クラウン)」による治療です。俗に言う「差し歯」もこの治療の一つです。
ポーセレン+ジルコニアクラウン
ジルコニア(二酸化ジルコニウム)は、「白い金属」と呼ばれており、高い強度と美しさを兼ね備えた歯科治療材料として最近注目されている高強度セラミックス材料です。
ポーセレン+ジルコニアクラウンは下図の右側の通り、ジルコニアという硬い殻の上に、透明で自然な白さをもつ「ポーセレン(セラミックの一種)」を手作業で盛り付けて美しく仕上げたもので、いわば最上級の「かぶせ物(クラウン)」です。
ポーセレン+ジルコニアクラウンの5点満点での評価
- 審美性 5点
- 汚れ(プラーク)のつきにくさ 5点
- 材料強度 4点
- 接着強度 5点
- 適合精度 5点
- 治療費用(コスト) 1点 (自費治療)
フルジルコニアクラウン・ブリッジ
高い強度と美しさを兼ね備えた高強度セラミックであるジルコニア(二酸化ジルコニウム)のみを使用した「かぶせ物」や「ブリッジ」をフルジルコニアクラウン(もしくはフルジルコニアブリッジ)と呼んでいます。「ポーセレン+ジルコニアクラウン」と比べ、「フルジルコニアクラウン」では透明感に富んだポーセレンによる化粧を行わないため(上図を参照)、審美性はポーセレン+ジルコニアよりわずかに劣ります。しかし、材料の進歩により近年はかなり審美性が向上しましたので、前歯にもケースバイケースで使われるようになってきました。ポーセレンによる化粧という手作業のステップが省けるため、低コストかつ丈夫であるのが大きな特色です。またセラミックのかぶせ物なので、プラークが付きにくいのもメリットです。
フルジルコニアクラウンの5点満点での評価
- 審美性 4点
- 汚れ(プラーク)のつきにくさ 5点
- 材料強度 5点
- 接着強度 5点
- 適合精度 5点
- 治療費用(コスト) 3点 (自費治療)
当院におけるフルジルコニアクラウンによる治療例
メタルボンドクラウン
ハイブリッドクラウン
ハイブリッド前装クラウン
硬質レジン前装冠
CAD/CAM冠(保険適応)
白金加金クラウン
銀合金クラウン(保険適応)